「親が私の気持ちをまったく尊重してくれなかった」「家族に勝手に私の持ち物を使われても、何も言えなかった」—— こうした経験を持つ方のお話を伺うことがよくあります。

「毒親に育てられた」と語る方々の話を深く聞いていくと、そこにはある共通点が見えてきます。それは、親が自分と子どもの境界線を意識していなかったということ。そして、この境界線の曖昧さは、成長してからも人間関係の中で悩みを引き起こしやすいのです。

「これって普通のことじゃないの?」—— 幼少期の境界線の曖昧さ

幼少期に、こんな経験はありませんでしたか?

  • きょうだいがあなたのおもちゃや持ち物を勝手に使っても、親が注意しなかった。
  • きょうだいや友達からからかわれたり、外見を嘲られても、親が「気にしないの」と流した。
  • 親があなたの服装を選び、外食時にはメニューまで決めていた。
  • 親がノックもせずに部屋に入ってきたり、日記や手紙を勝手に読んだりした。
  • 習い事や放課後の活動を、親が決めていた。

一見、親が「子どものために」やっていたことのように思えるかもしれません。しかし、これらの行動は、子どもの意思や選択を尊重するという視点を欠いたものです。子どもが「自分の考えや気持ちを持つ存在」として扱われてこなかった結果、自分の意見を持つことや、相手に「NO」と伝えることが難しくなることがあります。

大人になってからの影響——境界線が曖昧なままだと?

境界線が意識されない環境で育つと、大人になってからも、次のような問題に直面することが多くなります。

  • 友人や家族が勝手に部屋を掃除したり、模様替えをしたりする。
  • 配偶者が許可なく日記を読んだり、財布やポケットの中身を調べたりする。
  • 仕事を頼まれると断れず、休憩時間や休日も仕事を引き受けてしまう。
  • 無断で持ち物を使われたり、プライベートを詮索されたりしても、怒るべきかどうかわからない。
  • なんとなく、人間関係で疲れやすく、他人の感情に振り回されやすい。

「本当は嫌なのに、断るのが怖い」「頼まれると、つい引き受けてしまう」—— そんなふうに感じることがあるかもしれません。それは、「自分を大切にする」ことよりも、「相手を優先する」ことを当たり前にしてしまっているからかもしれません。

境界線を取り戻すためにできること

では、どうすれば、曖昧になってしまった境界線を取り戻せるのでしょうか。

1. 「これは嫌だ」と気づくことが大切

まず大切なのは、「これは自分にとって嫌だ」「心地よくない」と感じることを自分で認めることです。

「他の人は平気そうだから……」と思うかもしれませんが、あなたの気持ちは他人と違っていても構わないのです。まずは、自分の気持ちに正直になることから始めましょう。

2. 「NO」と伝える練習をする

突然「NO」を言うのは難しいかもしれません。最初は、小さなことから始めてみましょう。

例えば、「今日はいけない」「ちょっと考えたい」など、すぐにOKしない選択肢を持つだけでも、境界線を意識しやすくなります。

3. 「自分の持ち物・時間・空間を大切にする」

  • 大切なものを勝手に使われたくないなら、「これは貸せない」と伝える。
  • 仕事の依頼に対して、「今は手一杯なので、引き受けられません」と言ってみる。
  • 相手がプライベートに踏み込みすぎてきたら、「その話はしたくない」と伝えてみる。

これらはすべて、**「自分は大切な存在であり、尊重されるべき」**という前提のもとで行うことです。

ひとりで抱え込まず、相談することも大切

境界線を作ることは、時に勇気が必要です。長年の習慣を変えることは簡単ではありませんし、「相手を傷つけてしまうのでは?」と不安になることもあるでしょう。

そんなときは、ひとりで抱え込まず、カウンセリングを利用してみるのも一つの方法です。

カウンセリングでは、

  • これまでの境界線の問題を整理する。
  • 自分の気持ちを言葉にする練習をする。
  • 「自分を大切にする」ための具体的な方法を見つける。

といったことができます。専門家と一緒に取り組むことで、自分では気づけなかったパターンに気づき、少しずつ自分を取り戻すことができるかもしれません。

「境界線を作ること」は、自分も相手も大切にすること

境界線を持つことは、決して冷たいことではありません。むしろ、**「自分も相手も大切にするためのもの」**です。

「これは大切だから守りたい」「私はこう考えている」—— そんなふうに、自分の気持ちを認め、少しずつ表現していくことから始めてみませんか?

もし、どうしても境界線を作るのが難しいと感じたら、一度専門家と一緒に考えてみるのもいいかもしれません。あなたが「自分を大切にする」ことを、私は心から応援しています。