「トラウマは、情動的苦痛の中で一貫して孤立無縁であると感じることから生じる」──精神科医アレンのこの言葉には、多くの人の心が「そうだったかもしれない」と静かにうなずくかもしれません。
人生には、誰にでもつらい経験があります。けれど、トラウマと呼ばれる体験は、単につらかったというだけではなく、「その時、誰にも助けてもらえなかった」「ひとりでどうしていいかわからなかった」と感じた経験と深く関わっています。
この記事では、カウンセリングを検討しているあなたへ、トラウマと愛着の関係、そして回復のプロセスについてお伝えします。
「何が起こったのか、うまく説明できない」──それも自然なこと
私たちの心は、あまりにも強い衝撃や恐怖を感じたとき、それを整理することができません。言葉にすることも、思い返すことも難しく、「何が起きたのか、どう感じたのか」が自分でもよくわからなくなる。これが、トラウマ体験の一つの特徴です。
そして、さらに苦しいのは、その時に「誰かと一緒にいなかったこと」です。つまり、自分の気持ちを感じてくれる人がいなかった、助けを求められなかった、あるいは助けを求めても受け取ってもらえなかった……。そうした孤立した状態が、私たちの心に深い傷を残します。
愛着関係があると、私たちは回復できる
子どもが泣いているとき、お母さんやお父さんが抱きしめて「大丈夫だよ」と声をかけてくれると、少しずつ落ち着いてきますよね。これは、子どもが自分ひとりでどうしていいかわからない気持ちを、大人が「一緒に受け止めて」「言葉にして」「安心を与えてくれる」からです。
大人になっても、私たちの心の仕組みはあまり変わりません。つらいことがあったとき、信頼できる人がそばにいて、ただ一緒にいてくれるだけでも、心は少しずつ整っていきます。これが「愛着関係」の力です。
ですが、トラウマ体験の多くは、この「愛着の支え」がなかった状態で起きます。だからこそ、心の中には「誰にもわかってもらえなかった」「助けを求めても無駄だった」という痛みが残ってしまうのです。
「今度こそ、わかろうとしてくれる誰かと出会う」──それがカウンセリングの場
カウンセリングは、「ひとりで抱えてきた心の痛み」を、今度は安全な関係の中で、ゆっくりと解いていく場です。
話す内容は、思い出したくないこと、まだ言葉にならない感情、あるいは「こんなことで悩んでいて恥ずかしい」と感じていることかもしれません。けれど、カウンセリングでは、そのすべてを無理に話す必要はありません。今感じていることを、少しずつ、言葉にできるところから始めていきます。
カウンセラーは、ただ話を聞くだけではなく、あなたの体験に共感し、「あなたの感じたことは大切なことですよ」と受け止めます。そして、ときには「それは本当に苦しかったですね」「当時、誰も助けてくれなかったのですね」と、言葉にならない感情を一緒に言葉にしていきます。
そうすることで、かつて凍りついていた感情や記憶が少しずつ動き出し、今のあなたの中で再び整理され、癒しが始まっていくのです。
回復とは「つらさがなくなること」ではなく「つらさを持っていても生きていける自分になること」
トラウマの回復には時間がかかります。そして、完全に「なかったこと」になるわけでもありません。けれど、「もうこれに支配されなくてもいい」と感じられるようになると、生きやすさが少しずつ戻ってきます。
夜眠れるようになったり、人と話すことが前より楽になったり、ふとした瞬間に笑えるようになったり……。そうした変化は、小さなようでいて、とても大きな一歩です。
「ひとりじゃなかった」と感じられたとき、心は動き出す
私たちは、つらさや痛みを「誰かと一緒に感じられた」ときに、はじめてそれを抱えなおす力を持てるようになります。だからこそ、カウンセリングの場で起きるのは、「治す」というより「一緒に抱える」「感じ直す」「わかちあう」ということかもしれません。
もしあなたが、「こんな気持ち、わかってくれる人なんていない」と感じていたなら、それは決してあなたのせいではありません。これまで、そう感じるしかないような経験をしてこられたのだと思います。
でも、今度は、「わかろうとしてくれる誰か」と出会うことができます。それが、カウンセリングのはじまりです。
最後に
トラウマとは、「もう誰にも助けてもらえない」と感じた心の痛みです。
けれど、あなたは今ここで、「助けを求めてみようかな」と考えている。
それは、とても大きな勇気であり、もうすでに回復への一歩を踏み出しているのかもしれません。
私たちの心は、関係性の中で傷つき、関係性の中で癒されます。
どうか、これからは「ひとりで抱えなくてもいい」ということを、少しずつ思い出していけますように。