5月5日は「こどもの日」。子どもたちの健やかな成長を祝い、その幸せを願う日です。鯉のぼりが空に泳ぎ、柏餅の香りが街に漂うこの時期、日本中の家庭で子どもたちに目を向ける温かい空気が流れることを、心から嬉しく思います。

けれども一方で、子どもを取り巻く現実に目を向けると、決して楽観的な状況ではありません。少子化が進み、「子どもは社会の宝」と言われながらも、児童虐待の相談件数は年々増加しています。厚生労働省の統計によれば、児童相談所に寄せられる虐待相談は過去最多を更新し続けています。これは非常に深刻な問題です。

しかしこの増加を一面的に「社会が悪化している」と捉えるのではなく、「虐待とは何か」という認識が社会全体で広がってきたことの表れでもあると、私は感じています。昔は「しつけ」や「家庭の問題」とされていたことが、いまは「それは子どもを傷つけているのではないか」と声を上げる人が増えた。その変化は、子どもたちを守るための大きな一歩です。

それでもなお、虐待の陰にある「見えにくい暴力」は、家庭の中で続いています。たとえば、子どもが親の喧嘩を頻繁に目撃する、暴力的な言葉が日常的に飛び交う、あるいは一方の親がもう一方から暴力を受けている。こうした場面を目にした子どもたちは、「自分は安全な場所にいない」という不安を抱えながら育っていくことになります。

カウンセリングの現場では、「本当は怒鳴りたくなかった」「叩いてしまったことを一生悔やんでいる」という親の声をよく聞きます。子どもを愛していないわけではない。ただ、生活の中でさまざまなストレスが重なり、どうにもならなくなってしまった。そんな切実な声を、私は責めることはできません。

育児、家事、仕事、パートナーとの関係、実家との距離、経済的な不安、孤独感…。特に母親は、目に見えないプレッシャーを日々感じながら生きています。そして、「いい母親でいなければ」「感情的になってはいけない」と自分を責め、限界を超えてしまう。結果として、感情が爆発し、子どもやパートナーに向かってしまうこともあります。

だからこそ、私は思うのです。子どもを守るには、親を守らなければならない。親の心の余裕を支えることが、家庭全体の安心感をつくる最初の一歩です。そのために必要なのが、「コミュニケーションの力」です。

コミュニケーションとは、ただ言葉を交わすことではありません。感情を自分の中で整理し、相手に伝える力。相手の言葉の背景にある思いを受け取る力。自分の限界を素直に表現する力。そして、違いを受け入れ合う力。こうした力は、誰もが自然に持っているものではありません。でも、練習することで育むことができる「技術」なのです。

私のカウンセリングルームでは、親世代がこうした力を少しずつ身につけ、日々のストレスと向き合えるような支援を行っています。「話すだけで、こんなに気持ちが軽くなるなんて思わなかった」と涙を流す方もいます。「家族にどう気持ちを伝えればいいのか、初めて分かった」と笑顔になる方もいます。

専門家に相談するということは、「自分がダメだから頼る」ということではありません。「大切な人との関係をより良くしたい」という前向きな選択です。完璧な親はいません。けれど、子どもを想い、自分と向き合おうとする姿勢こそが、子どもの心にとっての何よりの安心なのだと思います。

こどもの日は、子どもたちの幸せを願う日であると同時に、私たち大人が「どうすれば子どもたちに安全な社会を手渡せるか」を考える日でもあります。子どもを守るには、家庭、地域、社会全体が一緒に取り組んでいく必要があります。そして、その出発点は、親が「ひとりで抱え込まない」こと。誰かに話してもいい、自分の心を整えてもいい、そんな風に思える社会であってほしいと、心から願っています。

これからも、地域の中の小さなカウンセリングルームとして、親世代を支え、子どもたちの未来を守るお手伝いを続けていきたいと思います。